もう一つのストーリー

先日、愛媛県は新居浜に行った話しを書いた。



実はワシ、愛媛県は２回目。
２５年ほど前に１度、今は亡きおやじと来ている（あくまでワシの記憶だが）




更にさかのぼる事…３０年ほど前…まだ小学１年生だったワシのある朝。
目が覚めると、おかんがいない。
家中探したがやはりいない。ワシは慌てふためき、おやじを起こす。



おやじも何が何だか分からない様子。
しかし、いくら待てど…おかんは帰って来ない。
おやじはおかんの実家に電話。涙ぐむおやじの姿を見て…
おかんが家を出ていったのが子供心に何となく分かった。



ワシとおやじは寝台列車に揺られ…鹿児島へ。



その後の記憶がない。
スタンガンか…睡眠薬か…ボディーにいいのを一発食らったか…
定かではない。



ワシの記憶は…それから何日か後…何週間後…
まったく覚えていないが…おかんと２人。知らない町にいた。
どうやらここで２人で生きて行くらしい。



優等生のワシは常にお利口さんだったため…
おかんは時折夜中、婆ちゃんに電話して泣いていた。
出来が良すぎると…嬉し泣きをしていたようだ（正反対…笑）

まったく女泣かせである。
この頃から、罪な奴だったようだ（笑）

おやじにはたまに会っていた。
ある時、おやじは再婚をした。そしておやじの弟さんの家に行くと言って、ワシも行く事になった。
その弟さんの家が…この愛媛県にある。それ以来なのだ。



そしてワシが１７歳の頃…２０年前。
おやじは病で倒れる。
その頃のワシは学校も行かず…何故かドカタのアルバイトをしていた。
ある日、病院から電話。
おやじが危篤なのですぐに病院に来てほしいと。



急いで病院へ向かう。
病室に入ると…おやじの兄弟全員が集まっていた。
静まり返る部屋に響く、人工呼吸器の音。



ワシはその姿を黙って見守るしかなかった。
その時…愛媛に住むおじさんが、おやじの呼吸器をはずし電気髭剃りでおやじの無精髭を剃りはじめた。
おじさんは目にいっぱい涙を浮かべ必死でこらえながら髭を丹念に剃っていく。
そして、泣き崩れた。



ワシはその時思った。
男が人前で泣いていいのは…こう言う時なんだと。





先日、ワシはそのおじさんの住む町にやったきた。
おじさんは、その事を知らない。




そしてワシは歌った。
「おやじに捧げるBlues」を。

約束を一つ

 

 

果たせたような気がした。